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いびき

いびき_d0065558_1242691.jpg痴呆のシェリル (仮名)は、いつ尋ねていってもベットに横になっている。

話しかけたら、私の顔をみるけれど、しかめっ面をしたり、なにか言おうとして口をうごかしたり。
残念ながら、私には、彼女の声が何を伝えようとしているのか分からない。

今日もいつものように、布団を胸のあたりまですっぽりかけて、ベットに横になっている。
私が話しかけている間、足を動かしてしかめっ面をするので、
「足が痛いんですか?もしかしたら、音楽をきくと、リラックスできて、痛みもやわらぐかも。
でも押し付けたくないから、まず一曲だけ歌いますね。もういい、と思ったら、その時点で教えてくださいね。」

彼女がどれだけ理解しているか定かではないけれど、
分かっているつもりで、普通に喋る。 ただ、いつもより少しテンポを緩めて、彼女の肩の辺りに手を触れながら。

体に触れる、というのは結構意味があるコミュニケーションの一つなのだ。
その人のバウンダリーにもよるので、触られるのが嫌な人もいるから気をつけないといけないけれど、肌のぬくもり、感触は、NurturingでComfortingなもの。

生まれたばかりの赤ちゃんが、ただ母親の体にぴっとりくっついているだけで、心臓の鼓動をかんじるだけで安心するのと似通っている。

話を元にもどすと、
彼女に私がこれからやることを説明してから、歌を歌い始めた。
そうすると、彼女はゆっくりまぶたを閉じ、口をあけていびきをかきはじめた。

注意深くきいていると、いびきも波がある、まるで音楽のように、盛り上がりと終焉がある。

歌がおわりそうになると、だんだんいびきも静かになってくる。

一曲歌い終わって静寂が訪れる。
静かに尋ねる、「もうちょっと歌いましょうか?」
反応はない。目をつむったまま。

私は、それから何曲か、彼女のいびきとともに歌をうたい、別れを告げて、彼女のベットの元を去った。その時彼女は高らかにいびきをかぎつづけ、深い眠りにについているようだった。

音楽の流れに彼女のいびきものっかって、不思議な私と彼女のダイナミックスが生まれていた。体の状態は「寝ている」という、見た目はコミュニケーションしない状態だけれど、彼女のいびきは明らかに音楽に呼応していて、その発見に心の中でクスリ、と微笑んでしまった。
寝てるふりしてるけど、実は、私と音楽にしっかり関わっているじゃないの!と。

音楽が間に立っている。間接的だけど、私と彼女が音楽のなかで出会って会話しているかんじ。

音楽が終わる頃には、どうやら彼女は深い眠りのかなたに行ってしまい、私が去るのも気付いていなかったようだけど(気付いていたかもしれないけど)、それはそれで深い安らぎを得られてよかった、と思ったのでした。
by totoatsuko | 2006-04-29 12:42 | 音楽療法セッション例 | Comments(0)
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音楽療法士(GIM)のつれづれ


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