続・ ちょっといい話
セッションを始めて数回は、基本的に、ピアノの前に一緒に座って歌ったり、ドラムを叩く、ということをしていたのですが、
ある日、木琴、ウインドチャイム、トーンバーをセッションに初めて取り入れたとき、彼女は1つづつそれらの楽器を試していました。例えば、木琴を少しの間弾いて、それが終わったら、マレットを元の場所に片付けて、それから、次の楽器に移る。ランダムに色んな楽器を弾いたり、同時に違う楽器を演奏する事はありませんでした。
彼女のお母さんによると、このパターンは食事をするときと同じなのだそうです。1つのお皿を食べ終えてから、次のお皿に移る。日常の行動パターンがセッションルームで、楽器との関わりの中で明確に現れた、という点がとても興味深かったです。
次のセッションでは、彼女はそれらの楽器をランダムに弾きました。彼女の食事のパターンが変わったかどうかは未確認なのですが、彼女が音楽の中では、日常の行動パターンの鎖から自由になってきているような印象を受けました。今まで培った自分自身の音楽を作り出すことに対する自信や、新しい楽器への興味や、やってみたい、という欲求が、それを可能にしたのかもしれません。彼女が色んな楽器を次々とランダムにトライしている時、彼女の音楽の色彩は、以前のそれと比べ、よりカラフルで、ダイナミックでした。
その後も、色んな楽器をランダムに弾くことに抵抗を感じている様に見受けられることもありましたが、それは、彼女にとって新しい行動パターンなので、当たり前の反応だろうと思います。
彼女は、音楽の中で色々試しながら、自分自身がどう感じるか、音になって自分に関係してくる音楽とどう関わっていくか、探っている過程にいるのだと思います。
彼女が、予期しない状況に対してどう対応するか、を音楽を通じて練習できるのは、素晴らしいことだと思います。予期しない状況に遭遇しても、それは彼女をノックアウトしないことを体で、心で体験することが出来ますし、予期しない音の反応や、それに対する自分自身の感情にうまく対応する体験を音楽の中で重ねることによって、彼女自身の自信がはぐぐまれていくと思います。
私とのセッションを始めた頃、彼女の表情はどちらかというとあまり変化がありませんでした。(もしかしたら、それが彼女の新しい状況や関係に対応する方法の一つなのかもしれませんが)わたし達がピアノの前に座り、歌い、ピアノの音を出している時、微笑んだりはしましたが、彼女の体の動きはあまりありませんでした。セッションを重ねていくうちに、彼女はもっと笑うようになったし、どう感じているか伝えるようになりました。例えば「(音楽するの)たのしい」「(ゴングの音が)こわいです。」そして、楽しいときは楽しい表情を、怖い時は怖がっている表情をするようになりました。
彼女が自分が今どう感じているか、という事に注意を払い、認識し、それを言葉で伝えることが出来るようになってきている、というのは素晴らしい変化だとかんじています。
また、ある日は、怖いゴングから、他の楽器をピアノの近くに総移動させて、ゴングから離れ、自分の安心できる空間を自主的に作りました。これは、彼女の「自分で状況をかえることが出来る」という自信の表れだし、いつもいつも「こうしなさい、こうしちゃだめ、嫌でもがまんしなさい」という人間関係のほかの関係もあるんだ、というのを私との関係から学んだのだと思います。もっと色んな人との関わり方があって、自己主張してもいいし、周りに認められる自己主張の仕方(突然ヒステリックになったり、引きこもったりするのではなく)があるんだ、って感じたんだと思います。
彼女が、世界は 従うものではなく、自分で作っていけるもの、と感じるようになり、自分に自信をもって生きることをもっともっと楽しく感じられるようになるといいな、と思っています。