故人を自分の中で生き返らせる?

母の死は予期していたし
母の病気の事、母が亡くなることについては、母と何年にも渡って、いろんな話をしてきた。
だからと言って、母が亡くなった後、
自分の気持ちの整理が簡単にできるわけではない。
母が亡くなったことについてグリーフプロセスをやりたい、と音楽心理療法セッションに来たクライアント。
自分とお母さんとの関係ってどんなものだったんだろう、
と篤子さんに聞かれて、
正直 “わからない” という感覚がまず浮かんだ。言葉で表せない、とかではなく、“わからない” という感覚。
ただ、とてもとても大事な言葉で表せないもの、という事だけはわかる。
では、その“言葉だけでは表せない”と表されるものの細部をセラピーで知っていきませんか。
その大切なものがどんな素材で作られているのか。
というと
やってみたい、という気持ちと
もしそれが分かって、分かったと同時に、もうその大事な要素が自分に存在しない(お母さんが亡くなったから)ということを目の当たりにするのは辛くて怖い
お母さんはかけがえのない存在だった、とぼんやり思っている方が楽かもしれない、
という会話をしました。
そして、話の流れで、やはり自分と母とのことをもっと知りたい、という気持ちに彼女はなりました。
Guided Imagery and Music で、音楽を聴きながら体験したお母さんとの関係のイメージは、黄色くてあったかいものに包まれて安心仕切っている自分、でした。そして、恐れていたこととは裏腹に、
イメージの体験と通して “心のレベル” で母との関係を追体験・再体験することで、母の肉体は存在しないけれど、自分の心の中では、”まだ母が生き生きと存在している”と“実感” したのでした。
大事な人が自分の人生から“肉体が死ぬことで”消えてしまう、その悲しみは言葉で表すことができません。
しかし、心理療法を通して、心の深いレベルでその存在を再確認できたら、その大切な人と過ごした時間、その人との関係で学んだこと、吸収したことを、心の中の “失ったものを入れる箱” に仕分けして、その中にしまったままにせず、日々の中で、その大切な要素をありありと感じながら、その人の存在をより身近に感じながら、大事なものと共に生きることができるんです。
深い感情体験は、ポジティブなものにせよ、ネガティブなもの、どちらにせよ自分の価値観や生き方に影響を与えます。その体験によって、自分を傷つける生き方を選んでしまう、そんな道を歩いてしまうこともあります。でも、その心の痛みの深さ、痛さを本当に知っているから、だからこそ、そんな痛みを感じる状況に自分を絶対に陥らせない生き方をしよう、という情熱に繋がる。
失ったものが何か、を心理療法レベルで知っていこうとすることは、絶望的な気持ちになるとは限らない。
実は、本質的には、自分は大事な人、大事な時代を失ったのではなく、大事なものは自分の中で確かに存在し続けている、と気づけるかもしれない。
グリーフのプロセスは、故人を再び自分の中で再確認し、再び蘇らせることにつながるかもしれない。