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活動に関する記事

久保 麻子 著(ジャーナリスト)


活動に関する記事_d0065558_136344.jpg音楽の効用を利用し心のケアにあたる音楽療法。「ヒーリング」という言葉が一般化して久しい日本でも、その認知度は浅い。灘田篤子さんは、NYを拠点としミュージックセラピストとして活躍する傍ら、日本での理解を広めようとする一人だ。音楽の可能性を信じながら、クライアントと共に歩く姿は、穏やかでありながら逞しい。

NYのある病院。植物状態の15歳の少女の傍らで、ギターを片手に歌いかける。次第に少女の心拍数は上がり、曲のフレーズごとに大きくため息をするように。息に合わせて即興演奏で応える。少女は息のリズムで音楽を導く。二人のコミュニケーションを可能にしているもの。それは音楽。「これは、患者の生活の質を上げることになります。植物人間で、私の存在意味は何なんだろうと思う彼女にとって、自己表現の場になるわけですから」

音楽の技術と医学の知識。両者が求められる音楽療法士という職業に出会ったのは、大学3年の頃、ニューヨーク大学主催のセミナーに参加した時だった。10歳の時に、ひとつ違いの弟を小児癌で亡くして以来、医者を志す。しかし、母親が自分にピアノを続けて欲しい気持ちも分かっていた彼女は、「どうせ行くなら一番良いところへ」と桐朋音大へ進学。医大を受け直そうかと思っていた頃、上記のミュージックセラピーのセミナーに偶然参加した。「あ、こういうものがあるのか。これなら私が今までやってきたものと、医学への思いも同時に生かせると思いましたね。でも日本ではまだ勉強できるところがない、そして留学を決めました」

大学院在学中、癌センターで研修生として、患者の心のケアにあたる。クライアントの一人に、35歳の乳がんの女性がいた。彼女は余命わずかで、夫も6人の子供も途方に暮れている。そんな時、例えば一緒に歌を歌ってみる。家族へのメッセージをテープに残してもいいのよ、と問い掛けてみる。その中で、歌を選ぶプロセスも重要だという。「全体の雰囲気や感情を共有し、私はコンテナー(器)として存在するわけです。泣き出したら、泣いてもいいのよ、と受け止めてあげる。音楽を通じ、行き場のない感情を共有することで生まれた一体感は、死に行く彼女だけでなく、残される家族の人生にも影響を与えるかもしれない」

死期の近い患者と接していても、そこに悲壮感がないのは、死を「終わり」ではなく、誕生と同じように「プロセス」と捉えているから。死があるから私たちは意味ある人生を歩むことができる。彼女は言う、死と向き合うためには、自分にとって恐怖とは何か、自分自身を知ることが必要だと。「死を目前に控えた時に、残りの人生をいかに過ごすかで、自分らしい死、自分らしい人生を歩むことができる。そのお手伝いができることは貴重なことだと思っています。光栄といっては言い過ぎですが…」

障害者やお年寄りを対象にするイメージが強い音楽療法だが、いわゆる健常者の心の健康にも有効活用されている。彼女の自宅に親子で訪れるクライアントも多いという。「カウンセリングや楽器で遊ぶ中で、親子関係が現れてくるんです。親が子供をコントロールしているとか。それを音楽で、子供が親をコントロールするようにしてみる。すると、親のほうが自分のしていることに気付いたり」

そんな彼女のクライアントに対する姿勢は柔軟性を持ちながらも一貫している。それは、クライアントの感覚を尊重しているから。「私は、『こうすべきよ』と判断を与える人ではないんです。彼らに対して、答えは見つけられなくても、一緒に迷ったり、絡んだ糸を解いたり、時には抱きしめたり、ただ隣にいるだけだったり、背中をさすってあげたり…言うなれば、私はコートラベラー(共に旅をする人)、カンパニー(仲間)かな?」一番やりがいを感じるのは、相手が心を開いてくれた瞬間。「それは、涙かもしれない、笑顔かもしれない。でも最初は抵抗やためらいがあった相手が、私を心から信頼してくれた時が一番嬉しいです」

小柄ながら、時折力強い目をする。それは、周りに流されることなく、自分の人生を選んできた自信。進学高から名門音楽大学へ進むも、周囲の風潮「なんとしても有名大学へ」「どうしても音楽家に」どちらの人生にも興味はなかった。それゆえ、風当たりも強く、話の合う友人もわずか。音大志望の彼女に対し高校時代の教諭が言い放った言葉は「お前は人間のクズだ」しかし、彼女が全国読書感想文コンクールで入賞するやいなや、教師陣は態度を豹変させる。人間とはこんなにも変われるものなのか…。
「『人間のクズ』がNYまで来ちゃって」と微笑む。「今、先生に会ったら?特に言いたいこともないです。先生も良かれと思ってしていたことですから。彼らの考え方を変えようとは思いません。セラピーも一緒です。人を変えることなんてできないし、何が正しいかなんて決めることはできない。いくら心理学を学んでも、その人のことは本人にしか分からないし、ましてやセラピーでお会いする以外の膨大な時間を私は知らないわけです。それでも一緒に迷ったり歩いたりすることはできるでしょう?」

現在は、アメリカで活躍する彼女だが、日本での音楽療法の理解の普及も使命と感じている。帰国する度に感じることは、「日本では、まだまだ音楽療法が『歌のお姉さん』の域を越えていない(笑)」実力ある音楽療法士がいないことと、雇用者側も理解不足から価値を見出すことが出来ず、職業として成り立たないのが現状だ。しかし、現在欧米で音楽療法を学ぶ日本人学生は多い。まずは日本での土壌作りを目指し、帰国時には病院で講演をすることもある。「先は長いですが、少しずつ理解を広められたらと思います。日本の役には立ちたいです」論文翻訳も計画中。音楽療法の先駆者として、彼女の意欲は止まらない。

趣味は陶芸や油絵。「カウンセリングに色を使うこともあります。色、音、テンポ、全てに気持ちは現れる。全部繋がっているんですよ」
決して押しつけることなく、奢ることなく、時に見守り、時に背中を押しながら。彼女はこれからもクライアントと共に「歩いて」いく。 
by totoatsuko | 2005-06-04 09:13 | プロフィールとコンタクトinfo | Comments(4)
Commented at 2006-09-02 18:58 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2006-09-26 21:36 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by totoatsuko at 2006-09-27 07:54
非公開コメントを書いてくださった方、ありがとうございます。letsmusicing@gmail.comへメールくださいませ。お返事します。
Commented at 2010-04-14 16:48 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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音楽療法士(GIM)のつれづれ


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